歯周病について

歯周病とはどのような病気か?

歯周病の原因

歯周病は誰もが発症する可能性のある口腔疾患です。 
理由は歯周病菌と呼ばれている細菌群は常在菌で、元々お口の中に存在するからです。

しかし、不衛生な口腔状態でいることで、細菌たちはバイオフィルム(プラーク)を形成し、歯に強固にくっつきます。シンクのヌルヌル汚れを想像するとわかりやすいかもしれません。

あのヌルヌルがバイオフィルムで細菌の塊です。お口の中にシンクのヌルヌルが付着していると考えていただければ、どれだけ不衛生な状態かをご理解いただけると思います。

このバイオフィルム(プラーク)に潜む細菌は酸素が嫌いなので、酸素が当たりにくい歯と歯肉の間、歯と歯の隙間を好んで住み着きます。このバイオフィルム(プラーク)を除去しないでいるとどんどん細菌は増殖し、やがて歯周病菌となって悪さをし始めます。

歯周病菌は長い年月をかけて、あなたの大切な歯を支える組織を壊していきます。そして最終的には歯が抜け落ちてしまいます。そして、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が全身に放たれ、全身疾患との関係性があると最近わかっています。特に糖尿病との関係性は多くのエビデンスが集まってきています。

このようにあなたの豊かな生活を奪っていく可能性のある口腔疾患が歯周病です。だから歯科医院はどこでも、歯周病は早く治療をしましょうと啓蒙しているのです。

歯周病は国民病と言われる理由

平成28年歯科疾患実態調査による歯周ポケットがある人の割合を示した図 
※出典元:厚労省、平成28年歯科疾患実態調査より抜粋

この図は4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合を年代別に分けたものです。これを見ると、歯周病は年々増え続けていることがわかります。

そして、20代中盤から30代中盤にかけて歯周病が増えていきます。これは歯科医院に行った人が対象になっているので、歯科医院に行っていない人を含めれば、更に歯周病に罹患している人の割合が多い可能性は多分にあると考えられます。

歯周病と聞いて他人事のように思うかもしれませんが、日本人の国民病と行っても過言ではないほど、多くの人が罹患している口腔疾患であると言えます。

歯周病の発症年齢


※出典元:厚労省、平成28年歯科疾患実態調査より抜粋

歯周病の発症が顕著になる年齢は18歳を過ぎてからです。
20代から徐々に歯周ポケットが形成されていき、30代から40代にかけて増えていき、50代になると半数以上が歯周病に罹患している状態になります。

年齢を重ねると歯が悪くなると言います、それは若い年齢のときに適切な対処をしなかったことが本当の問題です。将来ご自身の歯を失わないために、歯周病でない方は予防歯科を。歯周病の可能性がある方は、早期に治療することが重要であると言えます。

歯周病の危険因子(リスクファクター)

歯周病は歯周病原菌による感染症ですが、歯周病菌を口の中に持っているからといって必ずしも歯周病を発症するとは限りません。
歯周病を発症させる直接の原因は、歯と歯ぐきの周囲にたまった細菌の塊(歯垢、プラーク、バイオフィルムというタンパク質で覆われた塊)から出る毒素ですが、その他にも

  • 喫煙
  • 精神的、肉体的ストレス
  • 不適切な詰め物、不適合な冠や入れ歯
  • 歯ぎしり、くいしばり、かみしめ
  • 不規則や偏った食生活
  • 悪いかみ合わせ、歯並び
  • 妊娠
  • 肥満、メタボリックシンドローム
  • 糖尿病、骨粗鬆症、ホルモン異常に代表される全身疾患などの因子
  • 薬の長期服用

が絡み合って歯周病を発症させます。
このように歯周病は生活習慣病の要素にも大きく影響される病気です。
自分の努力や心がけ次第では、重症化することを防ぐことも十分可能な病気です。

歯周病と全身疾患

歯周病は進行すると歯を失うことになるため、それだけでも十分怖い病気です。
しかし、歯周病の怖さは実はそれだけではありません。
歯周病原菌は歯肉の毛細血管から侵入して、血管を通って身体中に広がっていきます。
口の中の病原菌が、歯ぐきの処置後約90秒後に、右腕の静脈から出てきたという実験データがあるほどです。
つまり、歯周病は全身的な病気と深い関わりがある、命に関わる可能性があるということです。
例えば次のような病気との関連が報告されています。

心臓疾患・脳梗塞
血菅の中に入り込んだ歯周病原菌の影響により血管の中に血栓を作り、それが元で心筋梗塞や狭心症のような心臓疾患や脳梗塞を起こしやすくなります。
糖尿病
糖尿病と歯周病との関連は深く、糖尿病の人は歯周病が重症化しやすいと同時に、歯周病が原因で糖尿病を起こしやすくなることもわかっています。
現在糖尿病学会では、糖尿病と診断された、あるいは糖尿病予備軍の方にはまず、歯科で歯周病の検査、治療をするように勧めています。
実際、歯周病の治療を行うと血糖値が安定するということが多く報告されています。
誤嚥性肺炎
加齢、老化現象により舌や口腔筋の反射機能が落ちると、唾液と一緒に口の中の歯周病菌を肺の中へ飲み込んでしまい、肺炎を起こして非常に危険な状態になり、死に至ることがあります。
早産・低体重児出産
妊娠すると歯周病になりやすくなります。
それは、女性ホルモンが大きく関わってくるといわれており、特にエストロゲンという女性ホルモンがある種の歯周病原細菌の増殖を促すこと、また、歯肉を形作る細胞がそのエストロゲンの標的となり歯肉が悪化していき、歯周病が悪化していきます。
中等度、重度の歯周病にかかっている妊婦は早産や低体重児出産を起こしやすくなることがわかっています。
その危険度は、タバコやアルコールによるリスクよりも7倍高いとされています。
消化器系疾患
歯周病原細菌の中はピロリ菌と共通する抗原(菌体の一部分)を持っているものがあり、胃炎や、胃潰瘍、胃がんの原因となる可能性があります。
関節リウマチ
歯周病原細菌が血管を通って関節の内部へ入り込み、炎症を起こして関節リウマチを引き起こす可能性があります。
人工関節を入れている人が歯周病になると、人工関節の周りに歯周病原細菌が病巣を作って炎症が起こり、人工関節を取り除かなくてはいけなくなります。

歯肉炎と歯周炎

歯周病という名前は、歯肉炎と歯周炎を含んだ総称です。
歯周病を大きく大別すると、歯肉炎と歯周炎に分けられます。

歯肉炎とは?

歯肉炎で歯茎が腫れているイラスト

歯肉炎はバイオフィルム(プラーク)の蓄積によって、プラーク内にいる歯周病菌が悪さをします。

歯周病菌が悪さをすると、歯茎が炎症し始めます。わかりやすく言うと、転倒して膝を擦りむいた状態です。

炎症の原因であるバイオフィルム(プラーク)を取り除かなければ、炎症は治りません。擦りむいた膝の汚れを落とさず、消毒しないと化膿してしまうのと同じことです。

痛みや違和感を感じないため、気付きにくいのですが、歯茎が腫れていると感じたら歯科医院へ行きましょう。何より、心配になったら一度検査することをおすすめします。

この段階では、歯槽骨(歯を支える骨)は溶かされていません。できればここで歯周病に気付けるのがベストであると言えます。

歯周炎とは?

歯周病菌によって歯槽骨が溶かされた状態のイラスト

歯茎にとどまらず、歯槽骨(歯を支える骨)が溶かされ始めると歯周炎の段階に入ります。

歯槽骨が溶かされることで、歯と歯茎の間に隙間ができます。これが歯周ポケットです。

歯槽骨が溶かされる度合いによって、歯周ポケットの深さが異なり、その深さに応じて軽度・中等度・重度と診断されます。

歯周病を食い止めなければ、結果的に歯は抜け落ちてしまいます。したがって、早急な治療を受けることが必要です。

参考:歯周炎の進行度合いについて

軽度歯周炎 歯周ポケットが3mm程度
中等度歯周炎 歯周ポケットが3mm〜6mm程度
重度歯周炎 歯周ポケットが6mm以上

歯周病のセルフチェック

自分が歯周病になっているかどうか、チェックリストを用意しました。当てはまるものが1つ以上ある場合、あなたは歯周病の可能性があります。

  1. 歯ぐきから血が出る(軽くブラッシングしても)
  2. 歯ぐきが腫れている、腫れぼったいと感じる
  3. 歯と歯の隙間が目立ってきた
    食べ物が挟まるようになった
  4. 歯が長くなった、歯茎が下がってきた
  5. 朝起きたらお口がネバネバする
  6. お口の中に鉄の味を感じる
  7. 口臭が強くなってきた
  8. 歯がグラグラする
  9. 出っ歯になってきた
  10. 痛くて噛めない
  11. 歯茎から膿が出た

これらの症状が1つでも当てはまったら、歯科で歯周病の検査を行いましょう。

番号が3番以降になると、歯肉炎から歯周炎に進行していると考えられます。

歯周病をどのようにして改善するのか?

歯周病の原因を明らかにする

歯周病になってしまった原因を検査によって明らかにします。
原因が把握できたら、適切な治療プランを考えることができます。

歯周病菌の問題、咬み合わせ(歯ぎしり・食いしばりも含む)による影響、生活習慣の見直しなどを検討していきます。

当院では、歯科ドックによる精密検査を推奨しています。

歯周基本治療でお口の状態をリセットする

歯周基本治療は、歯周治療の中でも最も大切な治療です。
当院では歯科衛生士によるSRP(歯周病の治療)や患者様のセルフケアだけで改善してきたケースもたくさんあります。

安易に歯周外科に走るのではなく、歯周基本治療を徹底することができれば、概ねの歯周病は改善することができます。

注意点が2つあります。
1つ目は患者様が治療に参加しないと治癒は遅れてしまうことです。セルフケアを頑張ることで、高い治療効果を得ることができます。
2つ目は全身疾患の影響を考えた結果、抜歯をしなければならない歯があるということです。歯を残すことがリスクになる場合もありますので、その際は患者様に必ずご説明をし、抜歯をするように致します。

どうしても改善しない場合に行う歯周外科治療

歯周基本治療を行っても改善しない場合があります。
そうしたときに行う治療が歯周外科治療です。

歯茎を切開し、歯根を露出させた状態で原因となる歯石やバイオフィルム(プラーク)を取り除いていきます。
歯周外科治療は麻酔下で行いますので、治療中にお痛みなどを感じることはありません。

適応の場合は、歯周組織再生療法も検討します。

歯周外科治療を行った際、適応条件を満たした場合に、歯周組織再生療法を行います。

失った歯周組織を再生する治療で、エムドゲインゲルやリグロスといった再生誘導剤を用いることが多いです。

注意点としては、100%の確率で組織が再生されるわけではないこと。そして下がった歯茎が元通りになるわけでもありません。

歯茎が下がったことが気になる場合は、歯周形成外科による審美修復治療が必要となります。

SPT及びメンテナンス

歯周ポケットが3mm前後になることが理想ですが、症例の中には5mm以下にならないケースもあります。
その際はSPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)を行い、歯周病が悪化しないようなサポートを継続的に行います。

歯周病が治癒したと評価された場合には、メンテナンスに移行し、歯周病を再発しないように管理していきます。

継続的なメンテナンスが、あなたの歯を長く守り続けることに繋がります。

患者様にお伝えしたいこと

最後に患者様にお伝えしたいことがあります。
歯周病に「完治」はありません。

歯周病は再発を繰り返す疾患であることがその理由です。
一度治癒したからといって放置してしまうと、また同じような思いを繰り返します。結果的には入れ歯やインプラントのほうが天然歯よりも多くなっているかたも少なくありません。

歯周病は一生罹患する可能性がつきまとう病気です。あなたの健康と歯を大切にするためにも、ぜひ治療とメンテナンスを行っていただけたらと思います。